「下垂体腺腫」の名称変更に関する学会での発言

2022年、世界保健機関(WHO)は、これまで使用されてきた「下垂体腺腫」という名称を、より医学的に適切な「下垂体神経内分泌腫瘍(PitNET)」に変更することを決定しました。(参考:当会ホームページ 2023年5月27日の投稿)しかし、この新しい名称への移行には時間を要し、日常臨床の現場においては患者に違和感や混乱を生じさせる可能性があるため、医師の間でも賛否が分かれ、議論が続いてきました。
特に、「腫瘍」という表現が「がん(癌)」を連想させることから、この分野に詳しくない医師の誤解を招く懸念があります。また、日本の指定難病制度では「がん」は対象外とされているため、この名称変更が指定難病からの除外につながるのではないかという不安もありました。

2025年2月に開催された第35回日本間脳下垂体腫瘍学会の特別シンポジウム1「PitNET(WHO)の抱える諸問題の現状」では、これらの懸念点について専門医による討論が行われました。シンポジウムでは、海外の基準に合わせて名称が変更されたものの、診療や治療内容、指定難病や特定疾患制度の取り扱いに変更はないとの説明がなされました。今後、公的な書類では「下垂体神経内分泌腫瘍(PitNET)」という名称が使用されるものの、診療や治療内容には影響がないことが強調されました。また、医師は引き続き患者第一の治療を継続する方針であることも確認されました。

このシンポジウムの最後に、当会の今村が患者会の代表として発言する機会をいただき、以下のように述べました。
「現在のところ、下垂体腫瘍の分類名が変更されたことに関して、下垂体患者の会へのお問い合わせや相談は寄せられておりません。また、2ヶ月に1回の交流会でも、そのような意見は聞かれていません。しかし、新しい分類が導入された際に、診断時の説明に『がんの仲間である』といったニュアンスが含まれると、多くの患者が不安を抱く可能性があります。今回のシンポジウムを通じて、分類方法が変わっても下垂体疾患の診断や治療法には影響がないことを理解しましたので、ご相談をいただいた際にはしっかりと説明していきたいと考えています。
また、私個人の考えとして、下垂体疾患の患者が生きるためには医療の支援が不可欠であり、指定難病制度によって大きく支えられているのが現状です。疾患の分類が変更されても、患者の生活の困難さが変わるわけではありません。この変更が指定難病制度の対象外とされることにつながらないよう願うとともに、今後の議論で生じるさまざまな情報が正しく患者に伝わることを切に望んでいます。」

この今村の発言に対して、多くの医師からは「非常に感銘を受けた」との温かい励ましの言葉をいただきました。また、「今後も患者に寄り添った治療を行っていきたい」との意見も寄せられました。
下垂体患者の会としても、医療業界の変化に注視しながら適切に対応し、患者の立場から引き続き意見を発信していきたいと考えております。